第6章①
稜は、新プロジェクトの会議に出席していた。
「今回、神崎HD側の責任者になります、神崎玲人です。よろしく。」
「マジか、、、責任者だってよ。大丈夫かよ、、経験ないのに。」
稜の先輩達が、またコソコソと話をしていた。
それを察してか
「皆さん、ご存知の通りドラ息子なので、
お手柔らかに。」
皮肉たっぷりに堂々と言ってのける玲人に、
稜は思わず笑ってしまった。
会議終了後、先輩達は、バツが悪そうにそそくさと部屋を後にしていった。
稜は、1人残り会議の内容をまとめていた。
「お疲れ様でした。」
玲人が声を掛けた。
「あっ、ハイ。お疲れ様でした」
「君も、新人君なの?」
「ハイ、今年入社したばかりで。。。」
「じゃあ、同じだね。オレも今年から、親父に会社には入れって言われてさ。」
「そうですか。」
「お互い頑張ろうよ、よろしく」
「あっ、ハイ。よろしくお願いします。」
部屋を出て行く玲人に一礼する稜。
妙に親近感が、湧いていた。
⑨
車の中で、司は類の話を思い返していた。
そうか、あいつも結婚してたか。
何年か前に、偶然、道明寺グループ本社でぶつかった時、あの頃には、もう1人で子供を育てていたのか??
、、、そうか、元気なら良かった。
十数年前、NYに経つ決意をして、別れを決めた時、オレの中の、あいつへの気持ちは、心の奥底に沈めて葬ることにした。
何度も、何度も、手に入れたかった、叶えたかった。。
そんな、想いを引きずったまま生きていくのは、つくし同様、司にも辛すぎる事だった。
日本に帰ってくるたび、気付くと窓の外の風景に、あいつの姿を探す自分がいた。
総二郎達から、あいつ自ら距離を置くようになった事を聞いた時、新しい世界に向かって歩こうとする牧野の決意を感じた。
もう、アイツのことは邪魔しちゃいけない。
別々の道を行く事を決めた以上、オレも歩き出さなければ、、、。
「牧野、、、」
葬ったはずの想いが溢れ出し、司は泣いていた。
⑧
道明寺を、いつものバーに呼び出していた類。
「何だよ、類。急に呼び出して。」
「あぁ、悪かったね。
でも、司には伝えておかないと、と思って。」
「は?なんだよ。笑」
「オレさ、今日、牧野に会ったよ。」
「、、、はっ?それが、何だよ」
「司はさ、牧野の事、どう思ってる?」
司の表情が、変わった。
「おまえ、ふざけんなよ!今更そんな話しかよっ。
もう、十何年前の話しだろ?
とっくに終わった事だ、、、。」
「司、、、もう時効だから言うね。
オレ、牧野と司が離れる事になった頃、いや、もう少し前から、牧野の事が、好きだった。」
類の突然の告白に、黙ったままの司。
「司が、NYに行くことになって、2人が別れることを決めた時、牧野の事、司から奪い取ってやりたかった。」
「、、、そうだったのか。悪かったな、類。おまえだったら、オレよか、あいつの事、守ってやれただろうな。。」
悲しい顔をしたまま、俯いたままの司。
「あいつ、元気かよ?」
「あぁ、元気だったよ。
詳しくは、わからないけど、、、
結婚した相手が、事故で亡くなって、1人で子供を育てたみたい。。」
「、、、あいつも、苦労がつきねぇな。。。そうか、結婚したのか。。。」
「うん。。。立派に子供を育ててるよ。
何年経っても、牧野は牧野だった、、、。
それって、スゴイよね。」
「あぁ。」
司は、小さく答えた。
⑦
花沢類が帰った後、ぽつんと1人考え事をしているつくし。
「花沢類が、私の事を好きだった?。。。」
いつからだったんだろう。。。
あの頃は、もうアイツの事で頭がいっぱいになっていた。
自分の想いに、嘘がつけなかった。
でも、その想いを貫くことが許されなかった。
気持ちに、正直に生きたかった。。。
本当に、辛かった数年間のことは、
今もあまり覚えてはいない。
花沢類の気持ちにも、気づくことも答えることも出来なかった。。。
つくしは、一人で泣いていた。
⑥
「神崎HDのご子息が、今回の件からチームに入りますので、皆さんよろしくお願いします。」
新プロジェクトに参加することになった稑達は、部長から告げられた。
「えっ、神崎の息子?確か、大学出たばっかりだろ?」
「まあ、コネ入社で、手始めにうちと、って感じですかね?」
先輩達が、噂をしていた。
「そういや、どっかの令嬢と婚約してるって言ってたな〜。」
「そうそう!まだ、相手10代らしいぞ。
羨ましいが、ま、可哀想だよなぁ〜。
自分の好きな人生選べねぇもん。」
「だな。」
ふと、梓の事が頭をよぎった。
アイツもお嬢様だったな。。
梓も、好きな人生を、自分で選べないんだろうか。。。
⑤
リビングに案内された類。
「今、お茶を用意するね。」
「お構いなく」
「あのっ、その。今日は、どんな用件ですか、、、?」
「うん。」
出されたお茶を一口飲み、類が話し始めた。
「稑クンの事なんだけど、、、
牧野は、もう知ってるよね?」
「、、、はい。」
「うちの会社で、働いてもらってる。」
「、、、はい。」
「牧野は、大丈夫かな?と思って。」
「大丈夫って?」
「うん。昔の事、掘り返す訳じゃないけど、色々あったからさ、、、。」
「そうね。でも、、、私達、大人になった。」
「そうだね。」
「花沢類や、滋さん達には、音信不通みたくなっちゃって、申し訳なかったと思ってます、散々迷惑かけたのに。。。
でも、あの頃は、もう何もかもが辛かったの、、。
だから、リセットするつもりで、
自分の生きてる世界の中で、精一杯生きてきたの、、、、」
「うん、、」
「家族ができて、守りたい、守らなきゃいけない存在ができたの。」
「うん、、」
「今は、精一杯、親子2人で生きてるの、、」
「うん。牧野、頑張ったんだね。」
「花沢類の会社で、お世話になる事は、とってもありがたいです、何よりも安心です。
ありがとう。
でも、、、それだけにさせて下さい。
寂しいけど、もう関わらないって決めたから。
勝手な事言ってるのは、わかってます。
ゴメンなさい。」
深々と、類に頭を下げた。
「いや、オレも牧野の気持ちは、わかってたつもりだったんだ、、
稑クンの事は、偶然だけど、何でかな、やっぱり牧野の事、ほっとけなかった。。
連絡取れない間も、また苦労してるんじゃないかと、気が気じゃなかった、、、」
そんな類を優しく眼差しで見つけるつくし。
「花沢類、ありがとう。」
「こんな事、言っていいのかわかんないけど、昔話だと思って、聞いて欲しい、、、。
牧野の事、オレが幸せにしてやりたかった、、。
アイツから、奪ってでも。
オレ、、、あの頃、牧野の事が好きだった」
つくしは、涙を流していた。
④
「梓ちゃん、君は恋愛をしたことがある?」
「えっ??」
「僕は、恋愛は、信じてないんだ。お互いに駆け引きしたり、責めたり、嘘ついたり、辛いことばかりでしょ?時間ばかり、費やして。」
「だから、君との事は、運命だと思ってる。君のその目を見たときに、これだ!僕の探していたものは、これなんだ、と確信したんだよ。」
少し間が空いて、梓が答えた。
「私も、恋愛って、正直どういうものか、まだわかってないと思います。でも、自分以上に誰かの事を大切に思ったりする気持ちって、羨ましいとなって。。。」
「フフッ」
「なっ、何がおかしいんですかっ!!」
「いや、ゴメン。そういう理想論で、君との関係を築くつもりは、無いんだよ。惚れた腫れたで済む恋愛は、とっくの昔に終わってるんだよ、、、、」
何かを思い出したものを、かき消すかのように玲人は言った。
「君は、僕にとって、ずっと美しい姫(プリンセス)でいてくれればいいんだよ。」