⑩初恋
アメリカから帰国して、1年。
日本に、ずっと住むということになったこと、
いつも一緒にいてくれた母親が、突然いなくなったこと。。
よくわからないうちに、周りの環境がどんどん変わっていった。
幼くて、記憶は曖昧だが、
何をしても、虚無感と寂しさだけが残り、
いつしか、屋敷から一歩も出れなくなっていた。
父親の幼馴染だという、あの人に初めて会ったのは、そんな頃だった。
「はじめまして、梓ちゃん」
その人は、私の目線位置までしゃがみ、
優しく、穏やかに微笑んだ。
「類。
今、梓のヤツ、ガキの頃のオマエみたいなんだよ。。」
「、、、ムリもないよ。大人だって耐えられない。」
「オレは、どうしたらいい??」
真剣な眼差しで、類に詰め寄る司。
「オレは、あの頃、司達や静がいたから救われたんだ。。
梓ちゃん自身が、心を許せる人を見つけられたらいいんじゃないかな、、、」
そう言うと、類は「はい、これプレゼント」と
梓に、一つのぬいぐるみを渡した。
それは、何だかとても愛おしい存在で、
一瞬にして、梓の気持ちを癒した。
「クマたん!クマたん!!」
すぐさま、ぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
「なんだよっ。
オレが、いくら海外の土産で買ってきてやっても喜ばねぇのに。あっ、類!これって。。」
「笑。気付いた?昔、司と引っ張り合いになったテディベアだよ。覚えた?リペアしたから、綺麗になってるでしょ? この前、倉庫片付けてたら出てきてさ。、、、いろいろ思い出した。」
貰ったテディベアを抱いて、嬉しそうに飛び回る梓を見つめながら、切なそうな表情をしている類に、司も気付いていた。
次の日から、テディベアは、梓の親友になった。
なぜだろう?ぬいぐるみなんて、今までも、新しいもの、限定品ものを、数えきれないくらい、与えられた。
でも、これは違う。。。
昔、誰かのそばにいた。。
その子から、とても愛されていた。
ずっと、その子を見守っていた。
「大丈夫だよ」って
優しい声が聞こえた気がした。
あの人と同じような、柔らかくて穏やかな声に感じた。