④
目の前にいる、見知らぬ男に怒鳴られ、ボー然としたままの梓。
今まで、怒鳴られたことなんてない。
ましてや、人前でなんて。
この状況が見世物になっている恥ずかしさや、
私も被害者じゃない、という怒りとはうらはらに、初めて誰かに真剣に怒られたことに、
少し嬉しさに似たものを感じていた。
「おい!聞いてんのかよっ!?」
その言葉で、我に返る。
「これ、返す。」
コーヒーで、ビショビショになってしまった一万円札を拾い、ポケットからハンカチを取り出して、キレイに拭いて、梓に返した。
「まあ、オレも急いでて、周りが見えてなかったからさ。。。」
黙ったままの梓に、言い過ぎたかな?と反省しつつも、
「じゃ。」
そっけない言葉をかけたあと、慌てた様子で、どこかに電話をかけながら走り去っていった。