⑧
梓と稜は、水族館に来ていた。
「水族館なんて、久しぶりだな〜。梓は??」
突然、呼び捨てにされて戸惑う梓。
「え?梓は??水族館、結構来てた??」
「あっ、あの。。。名前、、、」
「名前?えっ?あ、そうか。ゴメン。ちゃん付けした方が良かった??」
「ううん、、、でも、家族以外の男の人に呼び捨てにされたことないから、びっくりしちゃって。。。」
「アハハハ。案外、ウブなんだね笑」
顔を真っ赤にしたままの梓に、稜が優しく声をかけた。
「じゃあさ、オレのことも、稜って呼び捨てに呼んでいいから。」
「、、、うん、わかった。」
2人は、水族館の奥に向かって歩き始めた。
イルカショーを観ていた時だった。
バシャッーーー !!!
勢いよく飛沫が、2人にかかって来た。
「あぁーー、ヤラレた!」
頭からずぶ濡れで、笑い合う2人。
気付くと、水に濡れて梓のワンピースの中が透けてしまっていた。
とっさに、稜は、自分が来ていたジャケットを彼女に羽織らせた。
「あっ、大丈夫ですよ。すぐ乾くと思いますし。」
事情がわかってない梓は、ジャケットを脱ごうとした。
「だっダメ!!風邪引かせたら大変だから、着たままでいて!!」
それを必死に止める稜。
トイレに立った梓は、鏡を見て、自分のワンピースが濡れて、下着が透けてしまっていたのに気付いた。
ジャケットを着てなければ、丸見えだった。
稜のちょっとした気遣いに、心が惹かれた梓だった。
⑦
「母さん、母さんが父さんとデートした場所って、どんなとこだった?」
唐突な質問に驚くつくし。
「なっ、何?急に。」
「いやさ、母さんと父さん達って、昔どんなとこでデートしたのかなって思っただけ。」
「何よ、急にそんな事聞いてくるかと思ったら。えっ?まさか、とうとう彼女出来たのっ??」
「彼女かどうかは、わかんないけど、付き合ってる子はいるよ。」
「何よ〜、アンタは。もう、付き合ってるなら、彼女じゃないのよ。」
「う〜ん、付き合ってるけど、まだ気持ちは分かんないんだよね。」
「中途半端な気持ちで、お付き合いして相手の事、傷付けちゃダメよ。」
「なんかさ、好きかどうかわかんないのに、付き合う、って感覚、母さんわかる??」
昔、期間限定で司と付き合っていたことがあったっけ。
あの頃は、まだ自分の気持ちがハッキリわからなくて。。。
「母さん???」
「あっ、ゴメン。ぼっーとしてた。
とにかく、相手の気持ちも大切だけど、その気持ちに、自分が正直な答えを出すことが、相手にとっても誠実なんだからね。」
「わかってるよ。」
「キチンとお付き合いすることになったら、うちにも連れて来なさいね。」
「わかったよ〜」
なんだよ、結局母さん達の話聞けなかったじゃんか、とブツブツ言いながら、稜は自分の部屋に戻っていった。
⑥
「梓、あんた、結婚の話断ったってホント??」
久しぶりに、西門麗香と美作七海&葵海と集まっていた。
「えっー!?だって、相手って神崎HDの神崎玲人だったでしょー!!」
「ちょっと、神崎玲人っていったら、イケメンじゃないっ!?勿体なーい!!」
美作姉妹が、騒ぎ始めた。
「確か、お祖母様が話進めてたって聞いたけど?何か、気に入らなかったとか??」
冷静な態度で、梓に麗香が問いただした。
「うん、、、気に入らないっていうか、そういうのじゃなくって。。凄く優しそうな人なんだけど、やっぱり、その、、、結婚するっていうよりも、恋愛がしたいんだよね。。。」
「何それっ〜。だったら、神崎玲人と恋愛すればいいんじゃん!」
「神崎玲人だと、恋愛できないってこと??」
「う〜ん、何かね、詳しくは知らないんだけどあの人も過去に何かあったみたいで、恋愛とか信じてないみたい。。
とりあえず、自分が夢中になれる人、そういう恋愛をしてみたいの。」
「司パパは?何か言ってた?」
「うん、、お前の人生だから、お前が選べって。」
「、、、そう。」
麗香は、言葉少なげに答えた。
「で?誰かいるの??」
美作妹が、鋭くつっこんだ。
「えっ??」
「えっ、じゃないわよ。
誰かそういう人がいないと、啖呵きって結婚話なんて断れないでしょ??
誰か、そういうふうな人がいるんでしょ??」
経験豊富な美作姉が、続けた。
「うん、まあ。。。この間から、付き合ってる人はいるかな??」
「ちょっとー!!!それを早く言いなさいよー!
誰?誰なの??私達の知ってる人??
今日は、たっぷり聞かせて貰うわよ。」
興奮気味の3人に、囲まれる梓だった。
⑤
梓は、稜の事を思い出していた。
好きかどうかはわからないけど、
運命的なものを感じていた。
そして、久しぶりに連絡をしてみた。
《こんにちは、梓です。覚えてますか??
あの、もしよければ、久しぶりにお茶でもしませんか?》
しばらくして、稜から返事がきた。
《こんにちは。元気ですか?オレは、仕事の帰りでよければ》
2人は、稜の仕事帰りに会う約束をした。
待ち合わせ場所で、梓はひときわ目立っていた。
「あっ、おっお待たせ。ゴメンっ、待った??」
駆けつけた稜は、少し緊張していた。
「ううん。久しぶり。」
梓は、笑顔で微笑んだ。
2人は、近くのカフェに入った。
「あの、そのっ、元気だった?」
梓は、話出した。
「ああ、うん。今さ、花沢物産で働いてるんだ。」
「そうだったんだ!知らなかった。」
「うん、、、君は??」
「私?高2になった。」
「て、ゆうかさ、何でタメ口?オレ、年上なんだけど笑」
「え〜、いいじゃん笑」
「ま、いいけど笑」
お互いの緊張がほぐれ、笑い合っていた。
「私ね、家の人から婚約しろって言われたの。」
「えっ!?だって、まだ高2なんじゃないの??」
「うん、でも、こういう事って、年齢は関係なく進められるの。」
「へぇ〜、大変だな。君んちって、会社やってるんだよね。」
「うん。道明寺グループって言えばわかるかな?」
「えっ!?あ、そうか、確か前に聞いた覚えあったわ、スゴイね。花沢グループもスゴイけど、さらに上をいく財閥だもんな。」
「私の父も、政略結婚で会社を大きくしたみたいなの。」
「そういうもんなんだな、、、オレ達庶民にはわかんないな。」
「そういや、この間も、取引先の御曹司が、同じような事言ってたっけ。君たち世界って、どこも大変なんだね。」
「うん、、、でもね、私は、私らしく生きたいなって思ったの。つい最近、父にも、私はそうあるべきだ、って教えられたの。」
「君のお父さんは、政略結婚には反対なんだ?」
「うん、、詳しいことは知らないんだけど、
昔、色々あったみたいで。。。
私には、家とか考えなくていいって。」
「いいお父さんだね。」
「うん、、、あんまり父との思い出はないけど。。」
「でもさ、何でまた急に連絡くれたの?」
不意打ちの質問に戸惑う梓。
「あ、うん。何かね、その。。。。」
「その、何??」
「うん。。。えっと、言いづらいんだけど、
私、あなたの事をもっと知りたいなって思って。。。何かね、こういう事言うと、変に思われちゃうかもしれないんだけど、、、あなたとは何処かで会ってた、生まれる前から知ってるような感覚になるの。。。」
「えっ!?何それ笑どーゆうこと??」
「上手く言えないんだけど、懐かしい感覚になるっていうか。。。とにかく、あなたの事をもっと知りたいの。そして、何でこんな感覚になるのかを、確かめたいの!」
「それって、、、オレと付き合いたいって事??」
「えっ、つ、付き合う、、、??」
「そうことなんじゃないの??」
「そ、そうか。うん、付き合ってください!」
「笑。え?ちょっと待って、好きとか??」
「うーんと、正直、まだそういう気持ちはわからない、でも、付き合ってみて、そういうことも確かめたいの。」
「なんだよ笑 変なの。」
「だ、ダメ??」
「ダメじゃないけど、わかんないな。
中途半端な気持ちじゃ付き合えないし。
、、、でも、確かに君が言ってたけど、オレも君と会うと何か不思議な感覚になるんだよね。。。どうしてなんだろ??」
「じゃあ、2人で確かめていきましょうよ!」
勢いのよい梓に、少し圧倒されながらも、稜は梓との交際を承諾した。
④
陸の部署に、玲人がやってきた。
「神崎さん??どうしたんですか?
次回のミーティングは、来週でしたよね??」
「ああ。君か。ちょっと、確認したいことがあったんだ、直接聞きたいと思ってね。」
「そうでしたか。僕でよろしければ、お答えしますよ。」
そう言って、2人はミーティングルームに入っていった。
「神崎さん、もしまた何かあればメールでもお答えします。」
「いや、親父から引き継いだ最初の仕事だし、
周りにナメられたくないからね笑
、、、今は、仕事に打ち込みたいんだよ。」
意味深な言葉に、稜は不思議に思った。
「そういえば、ご婚約されてるんでしたよね。
ご結婚もそろそろですか?」
「、、、、」
「あっ、イヤっ、すみません。調子に乗って余計な事を聞いてしまいました。」
「いや、いいんだ。。。先日、婚約者から
結婚の話を保留にしたいと言われたんだ。」
「あ、、、はぁ。そうだったんですか、、、」
「ようやく彼女も心を開いてくれてきたと思ってたんだけどね。。。やっぱり、政略結婚なんて、今時ないよね。」
玲人は、悲しそうな顔をして笑った。
「正直、僕のような立場の人間には、家のためにとか、、、そういうのってわからないです。」
「羨ましいよ、君たちが。
オレは、自分が神崎の家に生まれてきた事を、恨んだこともあるんだよ。。
昔、好きな女を、幸せにする事が出来なかったんだ。。。
その時は、家という大きな存在に、人生を乗っ取られてるみたいに感じてた。。。
でも、やっぱり生まれ育った環境を、変えることは難しかったんだよ。。。」
「、、、僕には、その気持ちがわからないですけど。。。
本当に好きな人のためなら、何もかも投げ捨てるかもしれないです。」
「。。。若いね笑」
「感情だけで、生きていけたらどんだけいいか。でもさ、大人になるって、周りの事、自分以外の事を優先しなきゃいけない事もあるんだよ。」
玲人は、稜に、余計な話をして悪かったね、と
部屋から出ていった。
稜は、寂しそうな玲人の顔が忘れず、後ろ姿ずっとを見つめていた。
③
「司っ!あなたは、一体何を考えているのっ!!」
楓が、物凄い剣幕で社長室に入ってきた。
「何がですか?」
冷たい表情で、楓を無視した。
「梓が、一旦結婚の話を保留にしたいと言い出したわっ!!何か余計な事を吹き込んで、惑わせたんでしょう!!
あなたは、梓の父親なのよ?
何故、あの子の幸せを考えてあげないのよ。」
「お母さん、オレは、梓を、昔のオレのようにさせたくないんだよっ!!
自分で、選んだ道かもしれない。。。
でも、あの時、自分の気持ちに正直にいれたら、、って、今でも何度も夢に見るんだよ!
いつまでも、過去に取り憑かれてるようで、苦しいんだよ!!
こんな気持ちを、梓にもさせてたまるかよっ!!」
「司、あなたの言いたいことはわかります。
でも、あなたもこれまで生きてきた生活を変える事は、きっと出来なかったはず。
梓も同じなんです。
特別な環境で育ってしまった以上、知らない世界で生きていくというのは、とても辛いことだわ。」
「オレの気持ちなんて、いつでもお構いなしだったもんな。。。
オレ達は、あんたらの駒じゃないんだ!
ただ、アイツとの、唯一愛したやつと、
未来を見たかったんだよ。
それだけだったんだよ。。
わかってくれよ。。。」
司は、涙をこぼしながら楓に訴えていた。
②
梓は、久しぶりに司と食事をしていた。
「梓、おまえ、本当にいいんだな?」
梓は、しばらく黙って答えた。
「はい。玲人さんは、優しいですし、
何度か会ううちに打ち解けてきました。」
「、、、そうか。お前が納得してるんだったら、オレは何も言わない。」
「お父様も、お母様とお見合いだったんでしょ?」
「梓、オレは道明寺の跡継ぎとして、結婚したんだ、、、1人の男としてではなく、道明寺の人間としてだ。」
「もちろん、お前の母親の事は嫌いではなかった、、、、
オマエは、家のことを考えずに、1人の人間として、自分の生きたい道を行ってもいいんだぞ。自分で、選べるんだ。」
「どうして、そんな事言うの??」
「後悔して欲しくないからだ。自分の人生だ。
誰のものでもない、誰かに指図されて決めるものじゃない。」
梓に、ある気持ちがフッと蘇った。
しばらく忘れていた気持ちだった。