⑤
アルバイトに出勤する稜。
その姿をみつけた田中が、焦った顔をしてこりらに向かってくる。
「あっ!!佐伯くんっ!
やっと来たっ!君、何かしでかしたのっ!?」
冷や汗をかきながら、困った顔で迫ってくる。
「えっ?オレがですか??」
何かしたか??と思い出そうとするのもつかの間、
「しゃ、社長がお呼びなんだよっ!
キミの事!!」
よくわからないまま、田中に社長室に連れて行かれた。
「申し訳ありませんが、社長が佐伯さんと2人だけにして欲しいとの事ですので。」
入り口で秘書にそう断られ、心配そうな顔をして戻っていく田中に、大丈夫ですよ、と軽く声をかけた。
社長室のドアをノックした。
「どうぞ。」
「はい、失礼します。」
「君だよね、佐伯稜クンって。」
書類を片付けながら、話かけてきた。
「はい、そうです。こちらで、アルバイトさせて頂いております。」
「この間、下で会ってるよね?」
「は、はいっ。エレベーターのところで、お会いしました。」
「うん。」
少し沈黙したあとに、切り出した。
「あの?僕が何かしましたでしょうか??」
「うん。この間一緒にいた子の事なんだ。」
「はあ。」
そういえば、彼女の父親と花沢社長が一緒にいたな。
知り合いなんだろうか、、、。
「彼女のこと、何か知ってる?」
「えっ!?いや、特に何も。この間偶然あったばかりですし、つい先日名前を知っただけですから、、、。」
「あの子、あの時オレと一緒にいた道明寺司の娘で、道明寺梓。ちなみに、道明寺司は、オレのガキの頃からの親友。」
「そ、そうですか。」
「重ねて言うと、あの子はオレの娘同然ってこと。」
「はっ、はい。」
「佐伯稜クンだっけ?国立K大の1年生なんだね。」
「はい、そうです。」
「彼女のことどう思ってる?」
「えっ?どう思っているかとか、まだ偶然会ったばかりですし。何とも、、、。名前以外は知りませんから、、、。」
「そう、そうか。」
「は、はい。」
「何かあったら、オレに相談しなさい笑」
「い、いや、、、。」
「まあ、これから何かあったらの話だから笑」
「はっ、はい。よくわかりませんが、、。
ありがとうございます。」
「それだけだから、もう戻っていいよ。」
失礼しました、とお辞儀をして、退室した。
稜が帰ったあと、類は何かの書類を哀しげな顔で見つめてた。