⑤
つくしは一人悩んでいた。
どうして、こんな事になってしまったのか。。。
稜には、別れるように言ったが、納得するハズが無い、、、
自分でも、どうしていいのか、わからなかった。
そして、考えた末に、花沢類に連絡をしていた。
「花沢類?あの、、牧野です。
忙しいのにごめんなさい。。。
ちょっと相談したいことがあるんだけど、時間もらえますか??」
「牧野?相談?、、、あぁ、わかったよ。
じゃあ、14時に○△ホテルのカフェに来てくれない?」
時間より少し早くホテルに着いたつくし。
キョロキョロしながら、カフェを探していると後ろから、呼ぶ声がした。
「牧野!」
振り返ると、花沢類が手を振っていた。
つくしは、急いで類に駆け寄った。
その様子を、離れたところから、偶然司が見ていた。
ミーティングで、ホテルを訪れていた。
「類?」
こんなところで、女と会ってるのなんて、珍しいな。
ちょっと、冷やかしてやるか笑
司は、類達のあとから、カフェに入り、離れた席から様子を見ていた。
「話って?」
類が、切り出した。
「うん。。。稜の事なんだけど。」
「稜君がどうかした??仕事で何かあったとか?」
「ううん、仕事の事じゃないの。。」
「じゃあ、、、何?」
つくしの様子に、何か感づいたようだったが続けた。
「花沢類は、道明寺のお嬢さんのこと知ってる?」
「梓ちゃんの事?ああ、もちろん。司の娘だし、小さい頃から知ってるけど?」
「それが、どうかした??」
「、、、うん。どういう経緯かは、わからないんだけど、その梓さんと、稜がお付き合いしてるみたいなの。」
「、、、そう」
「ごめんなさいっ!こんな事、相談できる人いなくて。。。両方の事を知ってるのって、花沢類だけだと思って。。。」
「いや、いいよ。。。」
「私、どうしたら。。。稜には、お付き合いを辞めなさいと言ったけど。。
ねぇ、花沢類。私、どうしたらいいの??」
つくしは、その場で涙を流し始めた。
類は、とりあえず一旦落ち着こうよ、と
つくしの背中をさすりながら、店を出て行った。
2人の様子を見ていた司。
驚きを隠せず、立ち上がれないでいた。
類が会ってた女って、、、、
牧野か?
どうして??
会話は聞こえて来なかったが、親密そうに話をしていた。。。
類が背中に手を回していた様だった。。。
まさか、付き合っているのか??
そういえば、少し前に再会したと言っていた。。
昔、オレがNYに行って牧野が迎えに来た頃、類もアイツの事が好きだった、と言われた。
昔の気持ちを告白された牧野が、類を受け入れたのか??
司の心は、かき乱されていた。
④
「稜、ちょっといい??」
「ん、何??」
「あなたに、話しがあるの。」
深妙な顔つきのつくしを不思議に思いながら、稜は座った。
「母さん、今日来た道明寺さんとのお付き合いは賛成できないの、、、」
「えっ??何で?だって、あんなに会うの楽しみにしてたし、実際、楽しかったでしょ??
彼女、何かした??」
「彼女は、とても素敵な人だと思うわ、、、。けどね、私達とは、住む世界が違うの。
わかるでしょ??何もかもが違うのよ。」
「そんなの、最初からわかってるよ。」
「わかってない。友達だったら、何も言わない。でも、お付き合いするのは、あなた達が辛いだけ。。」
「母さん。どうしたの??こんな事言われるの初めてだよ、、、。何で??」
稜の質問に、黙ったまま俯くつくしだった。
まさか、道明寺の娘と、稜が付き合っているだなんて、夢にも思っていなかった。
道明寺とは、10数年前、ばったり会ったっきり。
自分はおろか、子供同士に接点なんてないはずなのに。。。
どうして、こんな事になっているのか、、、。
③
ピンポーン
佐伯家のインターホンが鳴った。
「はーい」
つくしが返事をしてドアを開けると、稜と女の子が立っていた。
「稜、おかえり。あら、こちらが例のお嬢さん??」
「うん。あっ、これがオレの母さん。」
「はじめまして。
今日は、お招きありがとうございます。」
梓は、お辞儀して、挨拶をした。
「さぁ、入って入って!待ってたのよ〜」
ダイニングに入ると、テーブルの上にいろいろな料理が並んでいた。
「母さん、今日はりきったね!」
「そうよ〜、沢山作ったから、沢山食べてちょうだいね。」
つくしに促され、席に着いた。
「はじめて食べるものばかりかもしれないけど、召し上がれ。」
3人の誕生日会が始まった。
一通り、食事が終わり、デザートのケーキを食べていた時だった。
「あっ、そういえば。お嬢さんのお名前聞いてなかったわね、うっかりしてた笑」
「あっ、オレも言いそびれてた笑」
「じゃあ、自己紹介してくれるかしら?」
つくしは、梓に笑いかけた。
「はい。私は、道明寺梓と申します。」
つくしは、その言葉に凍りついた。
「えっ??ど、道明寺??」
「はい。珍しい名前ですよね?」
「母さん知ってる?道明寺グループって?
彼女のお父さんが社長なんだよ。」
つくしは、返す言葉がなかった。
そして、そのまま、梓が帰るまで、黙ったままだった。
②
梓の誕生日パーティ当日。
場違いな雰囲気に、稜は戸惑っていた。
「こっち、こっち!」
梓が、遠くから手を振る。
梓の周りには、西門麗香、美作姉妹も揃っていた。
ドレスアップしている姿に、稜は少し怖気づいていた。
「今日は、招待してくれてありがとう。
あの、、、今日は、いつもと感じが違うっていうか。。。ドレス素敵だね。」
照れながら、褒める稜。
それを、横で見ていた麗香達が近づいてきた。
「梓の付き合ってる人って、あなたの事ですか??」
「えっ〜、ちょっと今までとだいぶタイプが違くない??」
「意外なんだけど〜」
勝手に話始める3人に、今、紹介するから黙って、と、なだめる梓。
「こちらは、佐伯稜さん。」
よろしく、と3人に頭を下げる稜。
その時、後ろの方がザワつき始めた。
そしてF4が、パーティーに現れた。
「ねぇ、F4よっ!!まさか、こんなところでお目にかかれるなんてっ!」
「大人になっても、やっぱり素敵だわぁ」
パーティーに出席していた女性達が、騒ぎ始めた。
「F4って??何?」
「F4っていうのは、梓の父親の、道明寺司と、私の父の西門総二郎、こちらの美作姉妹の父親の、美作あきら、そして花沢物産社長の花沢類、この4人の学生時代の呼び名なの。」
麗香が、稜に教えた。
「へぇ〜。何か、やっぱり君達って凄いんだね、、、。」
想像以上の世界に、驚きが止まらない稜。
「あれ?佐伯君??」
花沢類が、稜に気付いた。
「あっ、花沢社長。」
類に気付き、軽く会釈をした。
「何?彼、類の知り合い??」
あきらが類に尋ねた。
「うん。うちの社員で、佐伯稜君。」
「へぇ。で、何で君がここにいるの??」
あきらが突っ込んだ。
「あ。あの、梓さんに招待されまして。。。」
「へぇ、じゃあ梓の彼氏ってこと??」
「あきら、まぁ、そのへんにしとけよ。
ビビってるだろ?」
総二郎が悪いね、と間に入り、あきらを連れ出した。
「佐伯君、梓ちゃんと付き合ってるんだって?」
「しゃ社長、なんでそれを??」
「あぁ。さっき、あきらんちの双子達が噂してたからさ。君のこと。」
「は、はぁ。そうでしたか。。。」
「オレは、応援してるからさ。」
そう言って、類は稜の肩をポンと叩き、その場から離れて言った。
「おい、総二郎。梓のやつ、付き合ってるヤツがいるってホントか??」
「らしいな。今日、来るみたいだぜ。」
「どんなヤツだった??」
「おまえ、父親だろ?自分で確かめろよ。」
総二郎に、背中を押されたその時、前を通りすぎそうとした人物にぶつかった。
「あっ、すみません。」
「いってぇな〜、総二郎押すなよ。
あぁ、君。悪かったな。」
「いえ。」
司は、ぶつかった相手の顔をじっーと見て、立ち止まっていた。
「あ、あの?ホントすみませんでした。」
「ああ。いや、いいんだ。オレが悪かった、、、。そんな事より、君とどこかで会ったことあったかな??」
「えっ?えーと、どこかでお会いしたような気もしますが、、、すみません、覚えてないです。」
司は、どこかで会った、というよりも、過去の記憶が呼び戻されるような気がしていた。
「君、名前は?」
「はい、佐伯稜です。」
「佐伯?」
聞いたことがない名前だった。
でも、目元や、顔の雰囲気は、どことなく見覚えがあった。
第7章①
「ねっ。今度、私の誕生日会があるんだけど、来てくれる??」
「えっ、誕生日?いつ?」
「12月28日」
「12月28日??」
「そうだけど、、、??都合悪かった?」
「いや、、、実はうちの母親も同じ誕生日なんだ。」
「えっ!?そうなの〜??スゴい、偶然じゃない?」
「うん、ビックリした。」
「じゃあ、28日は無理かな、、、」
「いや、行くよ!母さんは、プレゼントだけ渡せば喜んでくれるだろうから。」
「じゃあ、楽しみにしてる。」
梓は嬉しそうに帰って行った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「ねぇ、母さんの誕生日って12月28日だったよね??」
「そうよ〜。何?プレゼントのリクエストでも聞きにきたの?笑」
「違うよ、そんなんじゃなくて。今、付き合ってる彼女も、同じ誕生日だったんだよ。」
「え?そうなの?偶然ね。
何かプレゼント考えてるの?」
「う〜ん、それなんだよね。。。
何がいいかなって思ってさ。彼女、欲しい物は何でも手に入っちゃうみたいだし。。
プレゼントとか貰い慣れてるだろうから。。」
「お嬢様みたいじゃない笑そうね〜
だったら、いつもご馳走は食べ慣れてるだろうから、うちの食事でよければ、一緒にお祝いなんてどうかしら??」
「えっ?うちで??」
「そう。お嬢様みたいな生活してたら、きっと庶民のご馳走とか知らないんじゃない?笑」
「そうか。。。聞いてみるよ。母さんと一緒の誕生日なんて、彼女も驚いてたし。」
「母さんも、会ってみたかったし、オッケーしてくれたら嬉しいわ。」
梓の誕生日の次の日に、稜の家に招待することにした。
⑩
司は、黙って玲人の話を聞いていた。
「それで?彼女とは?」
「それっきり、、、音信不通です。」
「それでいいの?」
「、、、、」
「彼女の事、本当に愛してたのか??
このまま、中途半端に気持ちを引きずったまま、先になんて進めないんだぞ。
君も、彼女も。。。
ちゃんと自分の気持ちにケジメをつけるべきだ、、、。
オレが言えた立場じゃないが。。。」
「あの、、、道明寺さん、
やっぱり梓さんとの結婚は、僕から破棄させて頂けませんか?勝手なお願いだとは、承知の上ですが。。。」
玲人は、頭を下げた。
司は、無言で頷いた。
「で、どうするつもり??」
「はい、とにかくフランスに行って、彼女を探して、何もかも謝ってきます。許されるとは、思ってませんが、、、。」
「、、、後悔するなよ。
あとの事は、こっちに任せればいいから。」
「はい。。。あの、話聞いて頂いてありがとうございました。」
最後に一礼すると、玲人は店から出て行った。
「司です。神崎玲人と、梓との結婚の話ですが、双方が、破棄したいとの事で一致しました。そういう事なので、この件は、ここまでにして下さい。」
司は、用件をだけ伝えると、あっさりと電話をきった。
⑨
司は、ホテルのバーに玲人を呼び出していた。
「神崎君、今回の件、本当に申し訳ない。」
頭を下げた司に、玲人もビックリしていた。
「いやっ、その、やめて下さい。道明寺さん。
」
「今回の事は、梓のワガママでしかないんだ。
だから、君には本当に申し訳ない。」
「いえ、、、実は、僕も本当の事を言うと、この結婚には迷っていました。。。
もちろん、彼女の事は好きでした。。
でも、なんか、自分の中で、結婚まで吹っ切れないというか。。。」
「君も、いろいろあったみたいだね。。」
「はい、、、。あの、今からいう話は、
ここだけの話にしてもらえますか??
誰にも言うまいと思っていた話なので。。」
「ああ、わかったよ。」
そして、玲人は話し始めた。
大学2年の頃、初めて心から愛する女性に出会ったこと。
3歳上の彼女とは、食事していたレストランで出会った。彼女は、そこでソムリエを目指して勉強していた。
彼女は、玲人のスタッフに対する横柄な態度が許せず、彼をその場で叱った。
慌てた上のスタッフが出てきて、玲人に謝罪したが、彼女は頭を下げなかった。
玲人は、今まで誰かに、真剣に怒られたことが無かった、自分のしている事は全て許される、親の力、金の力で何とかできると思って生きてきた。
彼女の存在が気になってしょうがなかった。
あの瞬間から、彼女に惹かれている事に気付いた。
数日後、店に行ってみると、彼女は辞めていた、あの一件後、半ば辞めさせられていたのだ。
必死に、彼女の居場所を探した。
数週間後、ようやく都内のレストランで働く彼女を見つけた。
彼女は、玲人を見るなり、何しに来たの?と冷たい言葉を掛けた。
それから、玲人は、週1回彼女の働くレストランに、通うようになった。
最初は、相手にもされなかった。
しかし、ソムリエを目指す彼女との話を合わせるために、玲人も必死に、ワインの勉強をして、会話のきっかけをつくっていた。
そんな、玲人の姿に、彼女も惹かれていき、2人の距離が縮まっていった。
毎日、彼女の仕事が終わった後、彼女の部屋で一緒に料理を作り、ワインを選んで呑む、それがささやかな幸せだった。
そして、お互いに愛し合うようになっていった。
彼女の部屋で暮らし始めて数ヶ月後の事だった。
彼女が、妊娠していることがわかった。
その状況に、嬉しさよりも、自分の今の立場や親になるという事が理解出来ず、気付くと、部屋から飛び出してしまっていた。
まだ、大学生である自分。
親に言うべきだろうか、いや、いっそ家を出てしまおうか。。駆け落ちでもいいじゃないか。
でも、どうやって暮らしていく?
何をして働く?
親子3人で生活できるほど、稼ぐ事が、自分はできるんだろうか??
神崎家に生まれ、何不自由なく育った環境以外で生きていくことが、恐怖に感じていた。
その間にも、彼女から連絡はあったものの、自分の答えを見つけ出せないままだった。
しばらくたったある日、玲人は彼女の部屋を訪れた。
そこには、彼女の姿はなく、部屋も空き部屋になっていた。
彼女の働いていた店を訪ねたが、そこにも彼女の姿はなかった。数日前に、退職していた。
同僚が、玲人に、手紙を渡してきた。
彼女からの手紙だった。
そこには、
「さようなら」とだけ書かれていた。
仲の良かった同僚の話では、
玲人に会うために、神崎家を訪ねてきていた事、そこで、玲人との事を話すも許してもらえず、代わりに、フランスでのソムリエ留学と手術費用を条件に、別れるように告げられたという。
彼女は、玲人に相談しようとしたが、一向に連絡がつかないことに気持ちも絶望し、 子供を産むことを諦め、フランスに旅立って行った、と聞かされた。